加重障害事案における逸失利益の算定方法

更新日: 2021.10.08

加重障害とは何か(加重障害に該当するケース)

「既に後遺障害のある者が傷害を受けたことによって同一部位について後遺障害の程度を加重した場合」(自動車損害賠償保障法施行令2条2項)を、加重障害といいます。

ここでいう「既にあった後遺障害」(以下「既存障害」といいます。)は、交通事故によって負った後遺障害に限られません(先天的に負っている障害や交通事故以外の原因で負った後遺障害も含まれます。)。

また、ここでいう「同一部位」とは、原則として、後遺障害系列表が記載する後遺障害の系列が同一であることを意味します。そのため、今回の事故によって後遺障害を負ったところが、既存障害があるところと全く同じところである場合に限りません。

なお、自賠責保険上、既存障害と「同一部位」(既存障害と同じ系列)に新たに後遺障害(以下「現症の障害」といいます。)が加わって場合であっても、既存障害の該当する後遺障害等級よりも、現症の障害の後遺障害等級が高い等級でなければ、加重障害に該当しません。この場合は、自賠責保険の後遺障害等級認定では非該当とされます。

加重障害にあたる場合、自賠責保険では、加重後の後遺障害に対応する保険金額から既存障害に対応する保険金額を控除することとされています。

自賠責保険での扱いは上記のとおりであるところ、裁判上、後遺障害を理由とした損害額を算定するにあたって、どのようにして現症の障害と既存障害の程度を損害額に反映させるかが、難しい問題となっており、いくつかの計算方法を、個別の事案によって使い分けているのが実情です。 そこで、加重障害と認定される事案について、後遺障害を理由とした損害額の算定方法を以下、ご紹介します。

逸失利益

まず、前提として、後遺障害を理由とした損害には、①逸失利益と②慰謝料があります。逸失利益とは、後遺障害がなければ得られたと考えられる収入から後遺障害のある状態で得られると考えられる収入を控除した差額をいいます。簡単にいうと、後遺障害があることによって見込まれる将来にわたって生じる減収分のことです。

②の慰謝料は、後遺障害を被ることによる精神的苦痛をいいます。

本記事では、①の逸失利益について検討していきます。

逸失利益の金額は、実務上、以下の計算式で算定されます。

式)「基礎収入」×「労働能力喪失率」×「労働能力喪失期間(に相応する中間利息係数)」

「基礎収入」とは、後遺障害がなければその人が今後得られたであろう年収をいいます。

「労働能力喪失率」とは、後遺障害を負ったことにより制限される労働能力の割合をいい、後遺障害等級表(自動車損害賠償保障法施行令2条別表)と労働能力喪失率票(労働省労働基準局長通帳)に準拠して定められます(例えば、後遺障害等級14級に該当する場合は、労働能力喪失率は5パーセントとされています。)。 「労働能力喪失期間」とは、労働能力が制限される期間をいいます。現に就労されている方の労働能力喪失期間は、基本的には、症状固定日から就労可能年齢の終期である67歳に達するまでと考えることができます(後遺障害の程度、個別の事情によって、変わります。)。

加重障害事案での逸失利益の算定方法

さて、加重障害事案における逸失利益の算定に話をすすめます。

加重障害の事案は、既に後遺障害を負っている人が更に「同一部位」に後遺障害を負ったという事案です。

そのため、単純に今回の事故によって負った後遺障害による労働能力の喪失分を上記の計算式で算定するだけではではなく、事故前から負っていた後遺障害による労働能力の喪失分(既存障害による影響分)も考慮する必要があります。

なぜなら、既存障害による影響分は、今回の事故によって発生した損害ではなく、事故前から被っていた損害だからです。

どのようにして現症の障害と既存障害の程度を、今回の事故による損害額に反映させるかについては、複数の算定方法があり、個別の事案で使い分けられています。

本記事では大きく分けて、2つの算定方法をご紹介します。

1 今回の事故単体による労働能力喪失率を認定し、今回の事故直前の実収入にこれを乗じ、更に、労働能力喪失期間に相応する中間利息係数を乗じる算定方法

式)今回の事故単体による労働能力喪失率×実収入(今回の事故直前の収入)×中間利息係数

この算定方法は、既存障害による労働能力喪失の程度(既存障害による影響)を、上記第2で紹介した計算式のうちの「基礎収入」において反映させています。

この算定方法は、「基礎収入」を今回の事故当時の実収入とします。

今回の事故当時の実収入は、既存障害を負っている状態での収入です。

そのため、「基礎収入」を「事故当時の収入」として計算することで、既存障害による影響を今回の事故による逸失利益の損害額に反映することができます。

この算定方法は、加重障害ではない一般的な逸失利益の算定方法と同様の考え方といえ、実態に即した算定方法であるといえます。

しかし、この算定方法では、今回の事故当時に定職についていなかった等の事情で実収入を「基礎収入」とするべきでない場合には、適正な損害額を算定できないという難点があります。

2 今回の事故後(加重後)の労働能力喪失率から既存障害のみによる労働能力喪失率を控除した(引き算した)値に、賃金センサスによる平均賃金を乗じ、更に労働能力喪失期間に相応する中間利息係数を乗じる算定方法

式)【今回の事故後(加重後)の労働能力喪失率-既存障害のみによる労働能力喪失率】×実収入(賃金センサスの平均賃金)×中間利息係数

この算定方法は、第2で紹介した計算式のうち、既存障害による影響を「労働能力喪失率」において反映させています。

この算定方法では、今回の事故後(加重後)の労働能力喪失率から、もともと負っていた既存障害による影響分を差し引くことで、既存障害による影響を今回の事故による逸失利益の損害額に反映することができます。

そして、「基礎収入」を事故にあった人と共通性がある人(性別・年齢・学歴等において共通性を有する人)の平均賃金とします。

この算定方法は、「基礎収入」を上記のような平均賃金とすることにより、事故当時、若年者であったり主婦である等の理由で、実収入が認定できない場合にも、適正な損害額を算定できます。

しかし、既存障害がありながらも実収入がある人の場合は、この算定方法を使用すると、実態に合わない損害が算出されてしまうという難点があります。

例えば、既存障害を負いながらも平均賃金額よりも高額な収入を得ていた人の場合、この算定方法だと、損害額が不相当に低額になってしまします。

3 結語

上記の算定方法の他にも、裁判例上、様々な算定方法で、加重障害における逸失利益が算定されています。

既存障害による労働能力の喪失の程度をどのようにして、今回の事故による損害額に反映させるかについては、個別の事案で最も実態に即した算定方法を利用することになります。

実収入を認定できるケースでは、上記1の算定方法によって算出することが実態に合っていると評価できます。

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